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暮らしの点と線

@suzuki_buffalo 結びます

帰省獣

 学問に王道なし、と言うが、帰省ラッシュにもまた王道はない。正確には、王道こそあれど、そのあまりの人口過密ぶりからもはや王道でなくなってしまっている、と言うのが正しい。高速道路は大渋滞、新幹線は椅子取りゲーム……それが日本の帰省ラッシュだ。尤も、各々が各々「凡そ最適であろう」という道を選んでいる以上、同一の道に集うは必然である。帰省ラッシュは王道ほど凄惨となるが、王道でない道筋は時間や費用の面でやはりどこか凄惨である。結局、帰省ラッシュに平易な道はなく、どの道を選んだとしても何かしらの苦難が付き纏う。

 王道のない帰省ラッシュにも、王はいる。新幹線指定席の乗車券を入手することができた人間。彼らは王であり、勝者である。悠々と指定席に着座し目的駅まで最適な帰省を行う王たちと、自由席付近に起立して数時間を過ごす無計画な有象無象との間には、階級格差としか表現できない壁が確かに存在している。ちなみに今年の帰省におけるのぞみ号指定席については、昨年一ニ月四日の時点で、一月三日の大阪〜東京行きの新幹線は始発から終電まですべての座席が埋まっており、ほどなくして前後の日程も埋まってしまったという、入手難度の著しく高いロイヤル・シートであった。また、金に糸目をつけぬ者は早々にグリーン券を取得し、やはり未来の快適を約束されていた。指定席が王なら、グリーン車は皇。ロイヤル・シートを超越するエンペラー・グリーンのかがやきは、平民たちにはことさらに眩しく映った。帰省ラッシュは、本当に強いものだけが勝つ。彼らが玉座で悠々と東京に運ばれている間にも、自由席乗り場には乞食の行列ができているのだった。
 ヒトはどこからきたのだろうか。我は海の子、やはり寄せては返す白波のひとつぶの粒子から生まれたのだろうか。あるいは我々の祖先と云われる類人猿よろしく、森林よりこの身を授かったのだろうか。しかし自由席の空席を探すぼくの眼光は、猿でも白波でもなく確かに狼のそれであった。欲望に取り憑かれた人間の眼は、驚くほど生々しくぎらりと光る。新大阪駅の降車ラッシュを経て、空席を探して走り回るぼくの眼窩には、やはり異常なかがやきが滲んでいたに違いなかった。結果的に、ぼくは椅子取りゲームに勝利した。股の間からジョバジョバ破水している妊婦でも来ない限り、ぼくはこの席を譲らないだろう。
 最後に、これは広島から新幹線自由席に乗車する場合の話だが、岡山や新神戸では自由席の人間は殆ど降車しないため、大量座席獲得のチャンスは新大阪までやってこない。新大阪を逃すと名古屋まで機会はない。名古屋を逃した者は死ぬ。高速道路は大体どこかの糞野郎が事故してハチャメチャ渋滞して全員死ぬ。深夜バスは無条件で死ぬ。改めて、帰省ラッシュに王道はない。皆、心して乗り切って欲しい。